- 序論
- 本論文の背景
2002 年から 2006~7 年までの伸長は、「AKIRA」や 「ポケットモンスター」をきっかけに日本のアニメに国際的な注目が集まり、 さらに国が政策としてコンテンツ産業の支援を開始したことで6、アニメ産業界あるいはアニメ業界(AJAの定義による)に新たなプレーヤーや資金の流入 が起こり、“アニメバブル”と言われる現象が起こったことを主な原因としてい る。
そしてそこで製作されたテレビアニメや劇場用アニメ映画から思うような資 金の回収ができなかったことで、“アニメバブルの崩壊”が起こり、2010 年代 初頭まで続く下降傾向が始まった。
「アニメ産業市場」、「アニメ業界市場」ともに 2011~12 年に関してはやや回 復を見せているものの、少子化によるキッズ向けアニメの先行き不安、ビデオ グラムの売れ行き減退による大人向けアニメの先行き不安など、社会やメディ アの変化に対応する必要に迫られている - アニメ産業市場
社団法人日本動画協会の定義に よると、「アニメ産業市場」は、アニメの映像商品及びそこから派生した商品 - アニメ業界市場
アニメを製 作・制作する企業が実際に得ている売上を「アニメ業界市場」と定義してその 推移を示しているが、製作・制作関連企業の売上に関して - 本研究の目的
本稿の前半部分においては、 「アニメビジネスの特殊性はどこにあるのか?」 「それはどんな仕組みにより支えられているのか?」 「アニメの市場はどのように形成されてきたのか?」 「アニメの影響力はどのように拡大し、どこまで及んでいるのか?」 といった繰り返し行われる一連の問いかけへの回答として、ビジネスモデル、 マーケット、プレーヤー、マーケットといったキーファクターに着目しながら、 日本のアニメビジネスの特性を明らかにする。そして後半部分において、現状 を分析、問題解決に向かう戦略提案を行う - 研究対象と方法
研究にあたっては以下の2つの方法を実施し、合わせて先行事例を実践する 関係者へのインタビュー、文献、Web による調査を行った。 - 国産テレビアニメシリーズのメディア展開、ビジネス展開に関する調査
- 日本のテレビアニメシリーズの制作数推移
(調査の対象としたテレビアニメのシリーズ数)
- ABPFにおける事例の検証
ABPFはアニメ業界の企業とアニメに関連した事業に興味を持つ異業種の 企業が出会い、新たなビジネスを起こすことによる、国内、海外での二次利用 収入の増加を目的とした組織である
筆者はABPFに事務局の一員として、企画段階から参画し、運営協力を行 うとともに、表 1.5、1.6 に記載するほぼすべてのセッションに関する会員向け レポートの作成あるいは監修を行うことで、アニメやアニメから派生するキャ ラクターの二次利用展開に関し、多くの事例を得た。 - 関連研究と本論文の方向性
- アニメビジネスの成り立ちと二次利用の構造
- 津堅は、コスト面の問題から不可能と考えられていた国産テレビアニメの制 作を、制作面での省力化を実践したシステムの構築と、マーチャンダイジング による制作経費の回収・補填といった作品制作の外側のシステム構築を行うこ とで実現した「鉄腕アトム」を日本流「アニメ」の原点と論じた。
- 中村は、コンテンツ産業は、マンガ、小説、アニメ、映画、ドラマやゲーム 等の分野でコンテンツの中身を軸として作品が展開されることで1次的な経済 波及効果がある他、テーマパークや教育産業などの関連産業への二次的な波及 効果があり、多メディア展開が市場拡大に貢献していると論じる
- 木村は、コンテンツ展開方策の理念モデルとしてグッドウィルモデルを示し
た。グッドウィルモデルは、コンテンツビジネスの基本価値をコンテンツにお
けるキャラクター、その名称、ストーリーが持ちうるグッドウィル(顧客吸引
力、営業上の信用)と仮定し、コンテンツの構成要素であるワンシーン、キャ
ラクター、メカデザイン、ストーリー等を抽出して、模倣あるいは二次創作を
行うことによって商品化を行い、商品化の展開を通じて収益をはかる事業の構
想模型である。
この構想模型を、アニメを利用して営業行為として現実化する ための仕組みと展開行為がアニメビジネスと考える。アニメのライセンサーは、グッドウィルを商品化権、ビデオグラム化権、販促使用権などのさまざまな権 利としてライセンシーに許諾することで、アニメをビジネスとして成立させて いる。 - コンテンツが持つ特性とメディアミックス
- 大塚は著書「物語消費論」の中で、象徴的な例としてビックリマンチョコを あげ、オマケシールを目当てにチョコを買う子ども達が、商品そのものの消費 ではなく、それを通じて背後にある大きな物語(世界観、設定、ストーリーな ど)を消費していることを指摘し、これを「物語消費」と呼んだ
- 東は、「物語消費」を踏まえ、「物語消費論」で言う「大きな物語(世界観)」 が、大きな「非物語(情報の集積)」に置き換わり、その文化圏内で共有される より大きな「データベース」を消費の対象とする形態を「データベース消費」 と名付けた。
- 木村8は、こうしたコンテンツの特性に関し、ゲームや小説、マンガ、オリジ ナルアニメといった原作コンテンツをメディアミックス展開した事例をあげな がら、コンテンツが原作から派生していく過程を「M+3Sフリー特性」に基 づいた「コンテンツ・エコシステム」という考え方で整理している。「M+3Sフリー特性」とは、コンテンツの特性を
- 「メディアフリー特性」
原作に適用されたメディアと異なるメディアに原作をそのまま展開するこ - 「スケールフリー特性」
原作のキャラクターあるいはメカデザインが本来持ちうる寸法の伸縮およ び重量の増減が可能な特性 - 「スタイルフリー特性」
原作のキャラクターあるいはメカデザインが本来持ちうるプロポーション の洗練化、誇張、変形、配色、彩度の変更が可能な特性 - 「ストーリーフリー特性」
原作のストーリーに基づいてその過去や未来、あるいは異なる時空間にお けるストーリーの創作が可能な特性を「ストーリーフリー特性」として、 それらの特性 - メディアミックス展開に関する議論
- 出口は、コンテンツ産業の超多様性市場への分化の進行を指摘し、「コミック マーケットやコミティアなどの同人誌市場の隆盛を背景に、アニメのコミッ ク化も作品とのタイアップ企画で営業視点からプッシュするマーケティングの 時代から、受け手のニーズに応える形での趣向を変えたメディア展開を行うこ とが求められる時代へと市場が変化しつつある」と現状を論じている。
- 三原は、アニメの世界観を駆使したアプローチに注目し、アニメ「涼宮ハル ヒの憂鬱」の北米展開についての研究を行う中で、北米においては全体の 40%の関連商品しか入手できない状況であったこと、原作であるライトノベル に関しては、北米において公式ルートでは一切入手不可能であったことを指摘 し、さらに翻訳、吹き替えといったローカライズ作業の際に、作品の根本的なテーマに関わる決定的に重要な要素が翻訳されずに残る「減殺」が起こってい ることを指摘している。
- コンテンツビジネスの今後に関する議論
- 新宅・柳川は、デジタル化の進展に伴って発生するフリーコピーがもたらす コンテンツ業界への影響を分析し、今後の方向性をコンテンツ製品とアナログ 製品のセット販売や、ライブエンタテイメントなどに見出している。
- まつもとは、デジタルメディアが進化する中でのアニメビジネスの変化につい て注目し、インターネットによる映像配信を新たなウィンドウとして捉え、ウ ィンドウイングモデルを再定義している
- 国産アニメのビジネスモデル、マーケット、プレーヤーの特性
- 国産テレビアニメシリーズと日本的ビジネスモデルの誕生
日本で最初の商業用アニメーションが制作されたのは 1917 年とされる。1 その後、アメリカのアニメーションが本編映画の前座的な扱いからスタートし、 発展したことと同様に、劇場公開作品を中心に国産アニメーションの制作は続 けられたが、市場については、1930 年代以後隆盛を迎えたディズニー・プロの 作品を始めとする外国産アニメーションが席巻した - 東映動画
1956 年には東映動画(現在の株式会社東映アニメーション)2が設立され、 アメリカの工程別制作システムを導入、1958 年公開の「白蛇伝」等の劇場用映 画で、高い評価を得たが、1953 年に開始されたテレビ放送においては、アメリ カを中心とする海外産アニメーションが市場を席巻する状態が 1960 年代にな っても続いた - 外国産アニメーション
1955 年に放送開 始されたフライシャースタジオ4の「スーパーマン」5を始めとして、1955 年か ら 1962 年までの間に 35 タイトルの外国産アニメーションが主に平日 18 時台 の子供向けの時間帯で放送されており6、日本の子どもたちには、テレビでアニ メーションを視聴する習慣がついていた。 - このように市場が待ち望んでいる状況なのに、国産のテレビシリーズが制作
されなかった理由は、制作期間と制作費の問題だった。
この問題について山口は「東映動画で 1 時間 30 分程度の長編アニメを作る 場合、スタッフ数が約 200~300 人、制作期間が1年半くらいかかっていた。予 算も 6,000 万円以上かかる
この方法で 30 分 番組を作るとなると、単純計算で1本あたりのスタッフ数が 100 人、制作期間は6カ月、少なく見積もっても予算が 3,000 万円となる。30 分番組 1 本の制 作費相場が 50~60 万円といわれた当時の環境では、あり得ない話であった
こうした問題を解決し、1963 年 1 月に放送開始した日本最初のテレビアニメ シリーズとされる「鉄腕アトム」の制作を行ったのは、手塚治虫が率いる虫プ ロダクションだった - 手塚治虫
手塚はスケジュール、予算、人員と いった国内の制作環境に対応するために、リミテッドアニメでも 30 分に対し 10,000 枚を超えていた動画枚数を 2,000 枚に抑え、撮影、演出等において さまざまな手法を編み出すことで
また、制作費に関しては、上記手法を採用してもまだ大幅に不足していたが、 手塚は不足分をマーチャンダイジングによる収益と自身がマンガから得る原稿 料で補填することにして、番組をスタートさせた - 鉄腕アトム
「鉄腕アトム」は常に視聴率 30%前後を 記録する人気番組となり、番組提供スポンサーの明治製菓を始めとする関連商 品は爆発的な人気を呼び、制作会社である虫プロダクションが放送期間中に得 たマーチャンダイジング収入は 5 億円(当時)にのぼった - 追随した他のアニメ作品群もまた「鉄腕アトム」と同じ
手法を取ったことで、制作費を放送局からの制作費(放送権料)と関連商品の
マーチャンダイジング収入によりリクープするモデルは国産テレビアニメの基
本的なビジネスモデルとして定着した
本研究において調査の対象となったテレビアニ メ 2,638 番組のうちおよそ8割にあたる番組がこのモデルで製作されており、 これらは全体において少数であり、また 2013 年現在においてミニ枠の番組を 除いては1社の販促を目的としたアニメ番組は存在していない - 広告代理店プロデュース方式
番組を1社で提供してくれるスポンサーが少なくなったことで、 番組を放送するための資金調達を担う機能を持った広告代理店がテレビアニメ のプロデュース機能を担うことになり、広告代理店が各社に番組企画をセール スしてスポンサーを取りまとめ、営業面での保証付きの企画として放送局に持 ち込む「広告代理店プロデュース方式」が拡大していった - 広告代理店プロデュース方式
スポンサーからの番組提供料、放送局からの放送使用料等の収入を 受け取り、制作会社に制作発注を行い、放送局には電波料を支払う。アニメに 関連した商品化を受け付ける窓口は、制作会社や広告代理店が行い、契約によ り定められた比率に従って、収益を分配する。 - 広告代理店プロデュース方式の番組において、スポンサーの中心となったのは、 景気の上昇とともに売上を拡大していった玩具メーカーで、「マジンガーZ」 (フジテレビ 1972 年 12 月~1974 年 9 月)放送中にポピー(現在のバンダイ) が発売した“超合金ロボット”24のような男児向け玩具や、女児向け番組に登場 するステッキやコンパクトなどの変身アイテムが商品の中心となった。
- 大人向けマーケットの誕生と発展
広告代理店プロデュース方式のテレビアニメが定着していく一方で“大人向け テレビアニメの元祖“と言われる「海のトリトン」(朝日放送 1972 年 4~9 月)、 「宇宙戦艦ヤマト」(読売テレビ 1974 年 10 月~1975 年 3 月)の放送が開始 され、1977 年に「宇宙戦艦ヤマト」の劇場用映画が高校生、大学生を中心に225 万 5 千人の観客を動員し、配給収入 21 億円、興行収入 9 億円(年間興行 成績 9 位)の大ヒットを記録することで、子供以外のアニメファンの存在を顕 在化させた
「海のトリトン」に中嶋製作所が提供につき、玩 具を発売しており、「宇宙戦艦ヤマト」のスポンサーにも玩具会社である野村ト ーイの名前が見られるように、この2作品を始めとする“大人が見られるアニ メ”はこのような背景の中で成立し、大人向けアニメのマーケットを作った
またこうしたアニメを取り上げたアニメ専門誌が続々 と創刊されることで、恒常的にアニメを見る学生や社会人のファン層が確立し、 定着した。 - 1975~1985 年に創刊された主なアニメ雑誌
- メディアの変化が生み出した新しいシステム
テレビアニメの場合、 音楽を担当するレコード会社が、主題歌やサウンドトラックといった音楽商品 と並行してビデオのライセンスを受け、販売を行っていたが、こうしたビデオ グラムの事業者は企画の決定を左右するような位置でなく、ライセンシーの1 社としてサプライチェーンの川下に位置していた - 広告代理店プロデュース方式のサプライチェーン
- 一方で 1982 年には完全に大人のファン層だけを対象として、ビデオグラム のみで発売するOVA(オリジナル・ビデオ・アニメーション)が登場、中学 生以上のアニメファンを吸収し、日本のアニメの特徴的な市場である大人向け マーケットを確立した
- 製作委員会
製作委員会方式は、劇場用映画ではすでに採用されていた方式で、アニメに関 しても同じく劇場用映画で採用が始まり、1980 年からスタートした「ドラえも ん」劇場用映画シリーズにおいてすでに原作元、出版社、放送局、広告代理店、制作会社が共同出資による製作を行い、各社の特性を生かして作品をヒットに 結びつける図式はすでに実質的に行われていた - 製作委員会方式の構造
製作委員会方式では、こうした費用のうち、制作費とプロモーション費を、 複数の企業が出資した製作委員会が負担して、出資したアニメが稼ぎ出した収 入でリクープする。しかし、放送枠のスポンサードの大部分も製作委員会参加 各社が行うので、結果的にはアニメを制作して、放送するために必要なほとん どすべての費用を製作委員会参加企業で負担する - 製作委員会の権利ビジネス
アニメは二次利用を前提として製作されており、以下のような様々な権利が 発生する。アニメの製作委員会方式は、こうした言わば川下にいた事業者がメイン・プレ ーヤーとなって川上統合を果たした結果の産物とも言える。 - 国内商品化権
- 国内番販権
- 海外番販権
- 海外商品化権
- インターネット配信権
- ビデオグラム化権
- 放送権
- 映画化権、舞台化権、イベント実施権
- 販促使用権
- 音楽出版権
- 製作委員会への参加プレーヤー
プレーヤーの業種は、映像パッケージ販売会社、アニメ制作会社、出版社、 放送事業者、広告代理店、レコード会社、ゲーム会社、アニメに関連した商品 化を行うメーカーや企画・プロデュース会社といった業種の企業である。 - 製作委員会の収益と配分
製作委員会に参加する企業がビデオグラム化権等の諸権利を使う際のロイヤ リティ率等の条件はこの段階で決定する。 幹事会社の役割はこの製作委員会組成時のプロデュース作業とともに、出資 金や委員会収入の管理を行うことである。参加企業は製作委員会の契約締結後 に幹事会社が設置した専用口座に自社の出資金を支払うが、出資の見返りとし て先に挙げた権利を独占的に使用して、それぞれの企業の得意分野でビジネス を行う。 - 第3章まとめ
二次利用ビジネスを根幹とする日本のアニメビジネスは、50 年前に放送を 開始した最初のテレビシリーズにおいて発想されたシステムを、これに続く作 品群が発展、拡大させていく中で築かれた
こうした発展拡大の結果として日本のアニメは、玩具会社をメイン・プレー ヤーとしたキッズ向けアニメと、映像商品販売事業者をメイン・プレーヤーと した大人向けアニメという2つの柱を持った幅広いマーケットを得た。そして、 その多くを支える仕組みが製作委員会方式である - キッズ・ファミリーアニメと深夜テレビアニメの制作分数推移
- 国産アニメのメディア展開
- アニメにおけるメディアミックス
- メディアミックスの源流
1950 年代、数々の少年向け月刊誌が創刊されており、その中心はマンガと 冒険小説だった。月刊誌の人気作品は子供向けにラジオドラマ化され、さらに テレビ放送が始まると実写番組化された。こうした番組において、マンガは原 作の源としてだけでなく、番組を成功させるためにコミカライズを行うメディ アとしても作用した - メディアミックスの進化
- 1970 年代後半から 1980 年代に入り、複雑なストーリーを持つ大人向けアニ メの制作が拡大すると、より複雑なメディアミックスを行う作品が現れる。
- 機動戦士ガンダム
「機動戦士ガンダム」は、テレビアニメの放送の他、玩具、マンガ版の連載 が行われ、冨野由悠季が書いたテレビアニメとは異なるストーリーを持った小 説は、50 万部の大ヒットとなった。さらに放映終了半年後に発売された「ガン プラ」と呼ばれるプラモデルが爆発的な売れ行きを見せ、後の劇場版公開もあ わせ、社会現象ともいえるブームを巻き起こした - 1980 年代後半になると、キッズ向けコンテンツのメディアミックス展
開が注目される。小学館が発行する「月刊コロコロコミック」5は、小学生向け
のマンガ雑誌として 1977 年に創刊された。創刊当初、同誌の中心となったのは、
学年別学習雑誌で人気を得ていた「ドラえもん」を始めとするマンガ連載だっ
たが、1980 年代中頃のファミコンブームの頃から、小学生向け情報誌の色彩を
帯びていく
- 大人向けアニメのメディアミックスの複雑化
メディアミックス展開は、1990 年代半ば頃に入ってさらに進化し、とりわけ 大人やティーンに向けたアニメにおいて極端に複雑化する。この原因はメディ アの変化によるものが大きい
この状況を変えたのが、1990 年代のマンガ雑誌の創刊ラッシュである。大人 向け市場が成熟していくに従って、各出版社からは様々なマニア向け雑誌が創 刊されていった。さらにゲーム会社等による出版界への新規参入がこの状況に 広がりを加えた。各社が自社内で複数のマンガ雑誌を持つことになり、ひとつ のコンテンツをこれらの雑誌上で複数のストーリーとして展開する中で、メデ ィアミックスはより複雑化した。 - 2010 年代の
メディアミックスモデルである
- アニメ業界が解決すべき課題
- アニメ産業の 5 フォース分析
- 大人向けアニメ、子ども向けアニメの2つの分野に関して、それ
ぞれに5つの競争要因による分析(ファイブフォース分析)を行った
- キッズ向けアニメ
ここで言うキッズ向けアニメは、主要なリクープの対象をキャラクター玩具 や食品、ステーショナリー等のいわゆるキャラクター商品とし、20 時までのキ ッズが視聴可能な時間帯で放送されるものとした - 大人向けアニメ
大人向けアニメは、主要なリクープの対象がDVD等のパッケージ化された コンテンツで、主に 22 時以後の深夜で放送されているものである - 日本の少子化の状況
ただ、こうしたキッズ向けアニメの課題に対する対処はすでに始まっている。 国際展開を前提とした海外との共同製作による一連の取組である。
日本と海外との共同製作は、1980年代にはフランスやイタリアなどのヨ ーロッパの国営放送局や制作会社との間で行われて - 大人向けアニメ事業のSWOT分析
- 大人向けアニメ事業のSWOT分析
- 激化する競争と変化
- メディアの変化に伴う競争の激化
- 国内の映像コンテンツビジネスに影響を与えた主な新しいサービス
(2005~2009 年)
- 1980 年代以後、テレビでの放送や劇場での上映という形式に加えて、ビデオ やDVDが登場することで、大量の映像コンテンツのアーカイブの視聴が可能 となり、映像コンテンツは過剰供給の時代を迎えた。
- 2000 年代のインターネット・メディア拡大の時期を 迎えても、主要なデバイスとしてテレビに依存し、ビデオグラムなどのパッケ ージを中心的な商品としており、その状況は現在も続く
大人向けアニメが実施している戦略は、インターネットを活用しつ つも、やはりテレビを中心に国内の限られた対象に向けて、商品の幅を広げて いくというもので、根本的な解決策にはなっていない。むしろ、消費者に対し てコンテンツが過剰に供給され、さらにサービスが過剰となっている現在は、 外からのイノベーションが起こりやすい状況と言える。実際、ビデオグラムの 売上が下降する一方で、ニコニコ動画や pixiv のような二次創作メディアが勢い を増し、「初音ミク」が piapro から生まれる二次創作の輪の中から様々な商品 や作品を生んでいる状況は、脅威である - 二次創作市場の拡大
- コミックマーケット85(2013 年 12 月開催)作品別参加サークル上位
- コミケ参加サークル数上位作品のイラスト投稿サイト投稿数
- こうした二次創作はアニメ事業者へのロイヤリティ(使用料)を生み出すも のではないが、アニメ事業者はこうした二次創作の場を、プロモーションの一 環として考えており、さらに作品やクリエーターの源泉として利用している。
- アニメの消費構造の変化
- 体験型市場の拡大
ライブエンタテイメントにとどまらず、コスプレイベントや聖地巡礼、テーマ パークでのアトラクションや鉄道会社や自治体が主催するスタンプラリー等、 市場は、年を追って拡大しており、将来的な可能性はさらに大きい - 聖地巡礼
- らき☆スタ
2007 年に放送開始したアニメ「らき☆スタ」9の舞台となった埼玉県鷲宮町 (現在の久喜市鷲宮地区)の町おこしが、放送後 3 年間での同町への経済効果 が 22 億円10と推定されるなど大きな反響を呼び、これに続いて様々な大人向け アニメにおいて実際の地域がモデルとして使われて、その場所をファンが訪れ て“聖地化”することで、アニメの聖地巡礼現象が生まれた。 - 番組関連ライブイベント
日本のアニメにおいて声優は単に、声をあてて演じる人ではない。ステージ やインターネットラジオ、時には一般番組で、歌い、踊り、語り、まさに番組 のキャラクターを全方向で演じている
アニメに関しては、こうしたイベントの他に、第1話や最終話の試写イベン トや、全話のオールナイト鑑賞会、DVD等のパッケージソフトの発売記念イ ベント等、多くのイベントが行われており、それぞれのプロジェクトのメディ アミックス戦略の中に組み込まれ、また物販の場としても大きな機能を果たす。 こうしたイベントの多様化に伴って、映画館の機能も変化しており、試写イ ベントの会場として使用される他、ライブビューイングの会場として使用され ることも珍しくない - 美術展
1993 年にラフォーレミュージアム他で開催された「私のアトム展~100 人の MY FAVOURITE [ATOM]」は、絵画、イラスト、マンガ、映像、音 楽等の分野で活躍するアーティスト 100 余人が制作した 100 余点のアトムを展 示するというもので、アニメをテーマとした美術展の先駆けとなった
アニメの作品や作家に因んだ美術展や、原画展は各地で拡大の傾向を見せてい る。入場料、協賛費とオリジナルグッズや図録の販売、地方開催のセールスを主な収益とするが、事業の収益の幅を広げる機会となる。またさらに作品にと っては作品の新たな世界をファンに提示し、ステータスを一段上昇させる良い 機会となる。 - アニメミュージカル
アニメを原作としたミュージカルは、1991 年に当時デビューから間もなか ったSMAPをメインキャストに起用して青山劇場で開催された「ミュージカ ル 聖闘士星矢」がその草分けだが、最も成功した例は「ミュ―ジカル テニス の王子様」(通称“テニミュ”)である。 - ライブコンサート
アニメのライブエンタテイメント市場が拡大する中で、存在感を増している のが、アニメソング(通称“アニソン”)のカテゴリーである。アニソンはメデ ィアコンテンツであるアニメが、メディアコンテンツである音楽とクロスオー バーしたクロスメディア商品とも言えるもので、音楽業界の中でも著しい成長 を見せている。
2013 年のシングルランキングでは、年間上位 80 曲の2割にあたる 15 曲が アニメ関連楽曲で、こうした楽曲を使ったコンサートは、アーティスト単独の ライブから10数名のアーティストが出演するフェスティバル形式まで多様な形 で行われている - コラボレーションカフェ
コンテンツと食の分野を結びつけたコラボレーションが数多く行われている。 もともとは、「ドラえもん」や「ポケットモンスター」等のキャラクターを使っ たファーストフード店の玩具付きセットや、店舗の販促にキャラクターを使用 する形で定着していたが、大人向けの飲食にメディアコンテンツを利用するテ ーマカフェが近年広がりを見せている。 - 消費構造の変化
- アニメの消費構造の概念図
- 欧米のアニメーションは、日本のアニメのような、背景にある物語やデータ ベースを消費することで消費形態を深化させる方向よりも、むしろその展開領 域を広げて国際展開を拡大する方向に進化している。メディア・コングロマリ ットのもとで製作され、ハリウッド映画と同様のビジネスモデルで展開される アニメーションは多くの国で多くの視聴者に受け入れられるように、日本のア ニメに比べると、シンプルで、わかりやすく作られている。
ゆえに、こうした消費は日本の、とりわけ大人向けアニメの特性である。 この変化した消費に対応するビジネスを組み立てることが大人向けアニメのひ とつの課題である - 課題解決に向けて
- 日本のアニメビジネスの特性と課題
- 新たな海外展開モデルの構築
- 海外向け動画配信サービスを使ったアニメ展開の構想モデル
- 新たなプレーヤーを加えた製作モデルの構築
- プレーヤーの固定化
- アニメ製作委員会のプレーヤーと役割
- 聖地巡礼の可能性
~アニメ「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない」の事例
2011 年に放送された「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない」(通称“あ の花”)の舞台となった埼玉県秩父市は、継続してファンを呼び続けている聖地 のひとつだ
イベントに関しては、8 月から劇場用映画が公開された 2013 年も、「あの花」 聖地巡礼マップの配布やスマートフォンを利用したデジタルスタンプラリーを 実施、映画公開直前には劇場版先行上映イベント「あの花夏祭 in ちちぶ」を開 催、重要文化財・秩父神社の境内での野外先行上映、キャスト陣によるトーク ショー、主題歌を歌うアーティストのライブ、スタンプラリー、屋台村など、 市内各所でさまざまなイベントを行い、約1万 2 千人を動員した。 さらに映画公開中の 10 月にも、秩父市内の椋神社で行われる龍勢祭8での 龍勢(ロケット花火の一種)打ち上げの際の口上と挨拶にメインキャストの声 優を招き、合わせてオリジナルイラストを使ったグッズの販売を行った。 オリジナルグッズに関しては、制作会社と市の商議課が包括的な契約を結び、 事業所は全て商工会議所を通じて、制作会社に申請を行う仕組みを作って進行 している。ストラップやバッジといった定番商品に加えて日本酒やカルタ等、 アイテム数は 100 を越えているという。 - アニメの聖地巡礼の課題と方向性
博報堂DYメディアパートナーズは 2012 年にアニメの聖地巡礼の経済効果 を年間 100 億円と試算した9が、一方で岐阜県の十六銀行が試算したテレビアニ メ「氷菓」10 1作品が及ぼす岐阜県への経済効果が 16 億円という報告もあり、 聖地巡礼の経済効果は 100 億円にとどまらない実感がある
しかし、アニメ事業者にとっては、番組のプロモーション効果と、地元での 限定品の販売によるロイヤリティは期待できるものの、ともすれば負担も大き く、経済効果で語られる金額に現実感が得られるようなマネタイズはまだ出来 ていないのが現状である。
事業化を進めるためには地域とアニメ事業者をつなげるコーディネーター役 が求められており、聖地巡礼を自社の事業に結びつけられる鉄道会社や旅行会 社にその期待がかかる。 - 体験型消費に関わるプレーヤーの事業参加
消費構造の変化に伴って登場した異業種のプレーヤーたちのビジネスを拡大 して、アニメ事業の資金、収益の一部に組み入れる状況を構築するためには、 双方のビジネスに関する理解やアニメ事業者からの協力、そして聖地巡礼によ る地域活性の場合で言えば、効果的な時期、場所でのイベントの実施や、キャ ラクターの使用、商品制作に関する細やかな指導といったものが必要になるが、 既存のアニメ関連事業者が抱える事業の幅の拡大とプレーヤーの固定化の解消、 拡大という課題に応える可能性を持つものである。 - 異業種や自治体をプレーヤーに加えた製作委員会モデル
- クラウドファンディングによるプレーヤーの拡大
アニメ制作会社トリガーは、文化庁の若手アニメーター育成プロジェクト「ア ニメミライ」14の支援を受けて制作した 25 分のアニメ作品「リトルウィッチア カデミア」の続編制作に際して、アメリカのクラウドファンディングサービス Kickstarter を通じて資金協力を呼びかけ、全世界の約 8,000 人から 62 万 5000 ドルの資金を得た。資金を得て制作を開始した「リトルウィッチアカデミア2 (仮)」は、当初の予定 20 分の倍の長さの中編作品となる予定である
クラウドファンディングの段階、プロトタイプ作品公開の段階でユーザーの 評価を知ることもできるので、シリーズ展開の可否、予算、展開等についての 判断材料が得られることと、一般に対して作品理解を深められるので、シリー ズ作品あるいは劇場用映画制作に際しては、業界外のプレーヤーや一般投資家 からの投資を募る可能性も広がるのである - クラウドファンディングを利用したアニメ展開の図式
- メディアの選択
- テレビ放送の重要度の低下と映像配信の浸透
1995年の「新世紀エヴァンゲリオン」の社会現象とも言える大ヒットの 後、製作委員会方式の大人向けアニメはまず、テレビ東京系列を使用すること で、その数を増やしたが、2000年代に入り、“独立局ネット”と通称される 独立局を積極的に使用した放送形式が特に製作委員会方式の大人向けアニメに おいて急速に拡大した - 独立局ネット
“独立局ネット”とはそれまで一般的だった地上波キー局の系列を使って 放送するのではなく、関東地方の東京メトロポリタンテレビ(MX)、テレビ 神奈川(TVK)、テレビ埼玉(TVS)、千葉テレビ(CTC)、関西地方の 京都放送(KBS)、サンテレビ(SUN)、中部地方の三重テレビ(MTV)、 岐阜放送(GTV)といった独立局を使って視聴者人口のボリュームゾーンの 関東、関西、中部の3地区での放送を行い、他の地区については地方局との 個別交渉による編成あるいは、BS局、CS局での放送や映像配信によりカバ ーする方式のことを言う。
キー局に比べてこれらの独立局は、放送するための コストが安く、もともとターゲットが絞られる大人向けアニメが、全国津々浦々 までのカヴァレッジよりもコストを優先したことで、この方式が拡大した - 2011 年の代表的大人向けアニメのメディア展開
- 2012 年の代表的大人向けアニメのメディア展開
- インターネットによる映像配信の利用は進みつつある。アニメコンテンツの映像配信は、コンテンツの映像配信ビジネスが本格化し、バンダ イチャンネル15や ShowTime 16等が設立された 2002 年頃から、開始され、当初 は地上波放送が終了した作品が供給されていたが、二次使用の領域としてでは なく、地上波と同時展開するメディアとして、映像配信が積極的に取り入れら れるようになった
テレビ放送と映像配信を同時展開する番組の数は 2010 年以後急増しており、 表 7.2、7.3 にあげた番組の多くも同時展開を行っている。また、表 7.3 にあげ た 2012 年の 10 番組のうち、6 番組は「ニコニコ生放送」「みんなでストリーム」 といった双方向配信を行っている。さらにテレビ放送に先行して映像配信を行 う番組も数を増やしている - メディア展開多様化の必要性
テレビ放送の重要度の低下と映像配信の浸透は、大人向けアニメのメディア ミックス戦略において、これらがいずれ並列にメディアの選択肢のひとつとな ることを示唆している
テレビ放送を中心に位置づけるのではなく、メディアの選択肢のひとつとし て考えるならば、広がった選択肢を駆使できる戦略的なコンテンツを、最適の メディア戦略を選択して展開するとき、最大の効果が生まれ、個々の作品が異 なった多様な戦略を実施することで、ユーザーの幅が拡大し、過剰供給の問題 は解決に向かう。 - 映像コンテンツのウィンドウウィングモデル
- アニメを使ったコンテンツ展開の概念図
- ゲーム発コンテンツの最新事例「艦隊これくしょん」
- ゲーム産業とアニメ産業の関係性
ゲームがアニメを、 アニメがゲームをメディアミックス展開のひとつとして使い始めるのは 2000 年代に入ってからのことである。
現在主流となっているSNSをプラットフォームとしたソーシャル ゲームの業界との間で行われているのは、ヒットゲームやキャラクターのアニ メ化や、アニメのキャラクターがゲームに登場する“コラボ”に留まっている
多くのソーシャルゲームがアイテム課金を主な収益手段とするビジ ネスモデルを取り、2012 年にはコンプガチャ問題が起こったが、そんな状況の 中で、オンラインのブラウザゲームを出発点とした新しいメディアミックスが 始まっている。本章の表題とした「艦隊これくしょん」である。 - 「艦これ」ファン拡大の背景
「艦隊これくしょん」(通称“艦これ”)は、角川ゲームスが開発・運営を行い、 株式会社 DMM.com(以下、「DMM」)がプラットフォーム、登録ユーザー、 課金システム、ユーザーサポートの提供を行う、PC用のブラウザゲームであ る。 - 2013 年 4 月のサービス開始当初の目標会員数は 10 万人だったが、twitter や 口コミでイラストやゲームの内容が話題となり、同年 7 月中旬には会員数 20 万 人を突破、11 月中旬の時点では、新規の会員登録は抽選制となっているが、会 員数 120 万人を突破、DAU(Dayly Active User)9の数は 40~50%と言われて おり、スマートフォンに対応しないブラウザゲームとしては驚異的な大ヒット となっている
- 「艦これ」の特徴のひとつとして、課金方式”があげられる。簡単に言 えば、「艦これ」は、ほぼ家庭用のゲームソフト1個分の金額で、十分に楽しめ るように作られている
- ゲーム内容やキャラクターの魅力や、特徴的な課金方式が、口コミと twitter 等のSNSを通して拡散することで、人気が拡大していった状況が窺える。
- ネット発のオリジナルIP
角川ゲームスは、2013 年 9 月 26 日、プレス発表会“KADOKAWA GAME STUDIO MEDIA BRIEFING 2013 AUTUMN”において、プレイステーション Vita 向けソフト「艦これ改(仮)」を 2014 年に発売することを発表するととも に、「艦これ」アニメ企画も進行中であることを発表した。 - 2013 年 12 月現在連載中の「艦これ」関連小説、マンガ
- 「艦これ」に関しては、 現在は大規模なメディアミックスが進行中だが、こうした戦略の起点となるよ うなゲームの開発は 5 年前の角川ゲームス創業の時から目指していたもののひ とつだという
『事業領域の拡大とグローバル化というテーマを持って、次世代のKADO KAWAにステップを上げていく時に、コミックやライトノベルを出発点とし たコンテンツは、これからも勿論出てくると思いますが、角川会長がよくおっしゃるように、人と人とのコミュニティとかネットとか違うところからコンテ ンツが生まれてくる。その事例としてよくおっしゃるのはニコニコ動画ですが、 そのように従来意識しているメディアミックスモデルも変わってくると思いま す。』 - ゲームとアニメの世界展開
- 海外に対してゲームを先兵としたメディアミックス
を行うことに関してはどうお考えですか?
『私見ですが、アニメは自分の理解では一部のローカルビジネスになってい て、ビジネスとしてキャッシュを生み出さないという構造が、コミックより厳 しい。パイレーツ(海賊版)の問題もあるのですが、欧米のゲームが持つビジ ネス基盤を現地の企業が持っていない。ネットで、タダで見られるものに対し てアメリカは投資をしようとしない。自分たちで産業化しようとしない。この ためにあらゆるものが映画化しないとキャッシュを生み出さない構造になって しまっていて、BDやDVDでアニメを見るというガラパゴス的状況なのは日 本だけという構造になっていますね。ビジネスとしてのポテンシャルはゲーム の方が圧倒的に持っていると思います。』 - 第 8 章まとめ
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