2023年1月3日 星期二

〈「自由で開かれたインド太平洋」 をめぐる日本の政策の展開〉飯田将史

  1.  はじめに
  2. 「インド太平洋」 地域概念の創出
    1. 二つの海の交わり
      このインド太平洋という地域概念を初めて公式に提唱し た国は、第 1 次安倍晋三政権のもとの日本であった。2007 年 8 月 にインドを訪問した安倍首相は、国会において「二つの海の交わり (Confluence of the Two Seas)」と題する演説を行った。この演 説において安倍首相は、「太平洋とインド洋は、今や自由の海、繁 栄の海として、一つのダイナミックな結合をもたらしています。従 来の地理的境界を突き破る『拡大アジア』が、明瞭な形を現しつつ あります」と指摘した 。すなわち安倍首相は、それまでは「二つの 大洋」として別個に認識されていたインド洋と太平洋の関連性の高 まりに注目し、インド洋と太平洋という「二つの海の交わり」を新 たな「拡大アジア」と位置付ける地理的概念を提唱した。この既存 の地理的概念を突破した「拡大アジア」が、後に一般化する「イン ド太平洋地域」の原点になったのである。
    2. 拡大アジア
      「拡大アジア」における日 印の協力を、後に「クワッド(Quad)」と呼ばれるようになる日 米豪印による協力枠組みへと拡大させる意向を示したことである。 安倍首相は演説で、「日本とインドが結びつくことによって、『拡 大アジア』は米国や豪州を巻き込み、太平洋全域にまで及ぶ広大な ネットワークへと成長するでしょう」と指摘していた
  3. 中国の台頭と 「自由で開かれたインド太平洋戦略 」 の提唱
    1. 第 2 次安倍政権によって打ち出された「自由で開かれたインド太 平洋戦略」における目標は、以下のように整理できるだろう
      1. 国際法と普遍的価値観に基づいたインド太平洋における 既存の海洋秩序を、力に依拠した現状の変更を推し進める中国から 守ることである
      2. 貿易・投資の円滑化や、インフラの整備などを通 じた連結性を向上させることなどにより、インド太平洋地域の経済 的な繁栄を図ることである。
      3. シーレーンの安定を確保したり、紛争の平 和的な解決に向けた環境の整備などを通じて、インド太平洋の安全 を保障することである
  4. 中国への対抗色を薄める 「構想」 への修正
    1. 日本が「自由で開かれたインド太平洋」をめぐる 政策に修正を加えた目的としては
      1. 中国との二国間関係の改善を進めることであ る。日本にとって近隣の大国である中国との安定した関係を構築す ることは、自らの安全と繁栄を確保するのみならず、地域の平和と 安定にとっても不可欠である
      2. 日本が掲げる「自由で開かれたインド太平洋」と いう考え方を、より多くの地域諸国と共有することである。とりわ け、ASEAN 諸国の「自由で開かれたインド太平洋」への理解を得 ることが重視された
      3. 米国のドナルド・トランプ政権が推進していた中国と の対立色の濃い「自由で開かれたインド太平洋戦略」との差別化を 図ることであろう
  5. おわりに : 日本の政策の展望と課題 
    1. 中国に対する「包摂性」を高めた「自由で開かれたインド太平洋」構想を推進することで、海洋における法の支配 を徹底させつつ、中国との安定した関係を構築するという日本の政 策は、いずれ限界に直面することになるだろう。
      1. 中国共産 党政権が、自由や民主といった普遍的な価値に根差したルールに基 づく海洋秩序を積極的に受け入れる可能性は限りなく小さい
      2. 日本が中国との安定した関係を構築する際に不可欠な条件は、 尖閣諸島に対する中国の挑戦を抑止することであるが、その抑止力 を提供できるのは「自由で開かれたインド太平洋」ではなく、日米 同盟である
      3. 「自由で開かれたインド太平洋」を推進する 日米豪印などが、既存秩序の消極的な受け入れを迫って中国に対す る圧力を強化すれば、ASEAN 諸国などが「自由で開かれたインド 太平洋」を支持することが難しくなってしまう
    2. 日本として は、中国による力に依拠した現状変更の試みを防ぐために、「自由で開かれたインド太平洋」構想とは切り離した形で、「クワッド」 を中心とした軍事・安全保障面でのハードな抑止力を向上させてい く必要がある
      他方で、「自由で開かれたインド大平洋」の枠組みにおける安全 保障面での協力は、能力構築支援や災害救援・人道支援などを中心 に進めるべきであろう
      日本にとっ ては、この「クワッド」と「自由で開かれたインド太平洋」のバラ ンスを最適化することが今後の課題となるだろう。

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