- はじめに
- 「インド太平洋」 地域概念の創出
- 二つの海の交わり
このインド太平洋という地域概念を初めて公式に提唱し た国は、第 1 次安倍晋三政権のもとの日本であった。2007 年 8 月 にインドを訪問した安倍首相は、国会において「二つの海の交わり (Confluence of the Two Seas)」と題する演説を行った。この演 説において安倍首相は、「太平洋とインド洋は、今や自由の海、繁 栄の海として、一つのダイナミックな結合をもたらしています。従 来の地理的境界を突き破る『拡大アジア』が、明瞭な形を現しつつ あります」と指摘した 。すなわち安倍首相は、それまでは「二つの 大洋」として別個に認識されていたインド洋と太平洋の関連性の高 まりに注目し、インド洋と太平洋という「二つの海の交わり」を新 たな「拡大アジア」と位置付ける地理的概念を提唱した。この既存 の地理的概念を突破した「拡大アジア」が、後に一般化する「イン ド太平洋地域」の原点になったのである。 - 拡大アジア
「拡大アジア」における日 印の協力を、後に「クワッド(Quad)」と呼ばれるようになる日 米豪印による協力枠組みへと拡大させる意向を示したことである。 安倍首相は演説で、「日本とインドが結びつくことによって、『拡 大アジア』は米国や豪州を巻き込み、太平洋全域にまで及ぶ広大な ネットワークへと成長するでしょう」と指摘していた - 中国の台頭と 「自由で開かれたインド太平洋戦略 」 の提唱
- 第 2 次安倍政権によって打ち出された「自由で開かれたインド太 平洋戦略」における目標は、以下のように整理できるだろう
- 国際法と普遍的価値観に基づいたインド太平洋における 既存の海洋秩序を、力に依拠した現状の変更を推し進める中国から 守ることである
- 貿易・投資の円滑化や、インフラの整備などを通 じた連結性を向上させることなどにより、インド太平洋地域の経済 的な繁栄を図ることである。
- シーレーンの安定を確保したり、紛争の平 和的な解決に向けた環境の整備などを通じて、インド太平洋の安全 を保障することである
- 中国への対抗色を薄める 「構想」 への修正
- 日本が「自由で開かれたインド太平洋」をめぐる 政策に修正を加えた目的としては
- 中国との二国間関係の改善を進めることであ る。日本にとって近隣の大国である中国との安定した関係を構築す ることは、自らの安全と繁栄を確保するのみならず、地域の平和と 安定にとっても不可欠である
- 日本が掲げる「自由で開かれたインド太平洋」と いう考え方を、より多くの地域諸国と共有することである。とりわ け、ASEAN 諸国の「自由で開かれたインド太平洋」への理解を得 ることが重視された
- 米国のドナルド・トランプ政権が推進していた中国と の対立色の濃い「自由で開かれたインド太平洋戦略」との差別化を 図ることであろう
- おわりに : 日本の政策の展望と課題
- 中国に対する「包摂性」を高めた「自由で開かれたインド太平洋」構想を推進することで、海洋における法の支配 を徹底させつつ、中国との安定した関係を構築するという日本の政 策は、いずれ限界に直面することになるだろう。
- 中国共産 党政権が、自由や民主といった普遍的な価値に根差したルールに基 づく海洋秩序を積極的に受け入れる可能性は限りなく小さい
- 日本が中国との安定した関係を構築する際に不可欠な条件は、 尖閣諸島に対する中国の挑戦を抑止することであるが、その抑止力 を提供できるのは「自由で開かれたインド太平洋」ではなく、日米 同盟である
- 「自由で開かれたインド太平洋」を推進する 日米豪印などが、既存秩序の消極的な受け入れを迫って中国に対す る圧力を強化すれば、ASEAN 諸国などが「自由で開かれたインド 太平洋」を支持することが難しくなってしまう
- 日本として
は、中国による力に依拠した現状変更の試みを防ぐために、「自由で開かれたインド太平洋」構想とは切り離した形で、「クワッド」
を中心とした軍事・安全保障面でのハードな抑止力を向上させてい
く必要がある
他方で、「自由で開かれたインド大平洋」の枠組みにおける安全 保障面での協力は、能力構築支援や災害救援・人道支援などを中心 に進めるべきであろう
日本にとっ ては、この「クワッド」と「自由で開かれたインド太平洋」のバラ ンスを最適化することが今後の課題となるだろう。
2023年1月3日 星期二
〈「自由で開かれたインド太平洋」 をめぐる日本の政策の展開〉飯田将史
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